油断 side:S
注)このお話は『夜の30のお題』小噺、02「油断」の続きです
先にそちらをお読みになるのをオススメ致します。
「…あれ?」
気付いたら、知らない場所に転がっていた。
ぐるりと周囲を見渡せば、薄汚れた打ちっぱなしのコンクリートの天井と、放置されて久しいらしい備品が散乱する床。これまた内装が剥げ落ちてコンクリートが見え隠れしている。
…本気で、此処はドコだろう?
どうにもボケた頭で起き上がると、足が少し軋んで悲鳴を上げた。足だけでなく、どうやら全身に倦怠感が滲んでいる。一体自分は何をやらかしたのだろう、と首を傾げて、はたとその存在に気がついた。
「げ」
どうやら廃ビルのワンフロアらしい場所に転がっていた自分の直ぐ横には、ぐったりと疲労を滲ませて眠るドッペルゲンガー…もとい。
「かいとーきっどだ…」
呟いた言葉がひらがなになってしまったのは、どうにも寝ぼけた頭の所為だろうか。どうしてこの男がこんな場所に居るのか、そもそも自分が何故此処に居るのか。
見事にすこんと抜け落ちた記憶にどんどん首が横に傾いでゆくのを止められず、工藤新一はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「えと…確か、ゆーべは」
何時もどおりに遅刻ギリギリで学校に駆け込んで、適当に授業を受けて。
放課後本屋にでも寄って帰ろうと通学路をほてほて歩いていたところで相変わらず行動が破天荒な己の母親に、彼女の古い知り合いだという人のパーティーに引っ張って行かれて。
流石にあの母親の知り合いだけあって一癖も二癖もある出席者たちとの会話は存外に楽しく、ついでに保護者同伴だからいいだろう、とかなりアバウトなノリで秘蔵のワインまで振舞って貰って。
ロスに帰るという母親と米花駅で別れ、一人またほてほてと家路を急ごうとしたところで怪盗KIDの特番を見て、ああ今日は予告日だったかと思い。
じゃーいい気分だから更にいい気分にする為にアイツを捕まえてやろう!と思い立って。
…思い立って?
「…思い出せねえ…」
肝心要の、この己の隣で眉間に皺を寄せて寝こけている輩と遭遇した記憶がない。というか、そもそもどうして自分はコイツに会いに行こうとしたのだろうか?
そしてこんなわけの分からない場所で二人揃って寝こけるような事態に陥ったのは、更にどういうわけなのだろうか。しかも隣の男ときた日には、未だに怪盗装束のままで転がっている所為で折角の白いスーツも埃まみれになってしまっている。
更に言うのなら、何故そんな地獄を見てきました的な表情で眉間に皺を寄せ、疲れ切った様子で転がっているのか。自分が隣に居るというのに。
なんだか無性に腹が立ってきて、新一はとても安らかとは言い難い顔で眠る白装束の怪盗のほっぺたを、むぎゅーっ、と思い切り摘み上げた。
2006.08.13.