sage of cardinal
彼を称する色は、「あか」。
その鴉の濡羽色のような漆黒の髪にも、粗野な戦場にあって焼けることない白い肌にも、真実を間違う事無く見据える蒼の双眸にも、その色の名を得るに足る要因はないのだけれど。
人々が、彼を称する色は「あか」。
真紅、緋色、深赤…冠する名詞は幾つもあれど、纏う色彩のいずれにも属さぬその色にて、人は彼を称する。
砂塵舞う戦場にて、陶器人形のような美しい、けれども流れる血にも失われる命にも眉一筋も動かさず、そのよく通る凛とした声で兵士を動かす命令を告げる。
手にした乗馬用の鞭で緩やかに空気を薙ぎ、指し示す先は彼にだけ見えている世界の果て。
小国・東雲を現在まで存続させ得た立役者、国を支える双頭竜の片割れ。
その数々の二つ名に唯一相応しい、鮮やかな白と緋色の外套を風に舞わせ一人立ち尽くす高地の朝は、真夏の最中でも些かならず肌寒く、ふるりと肩口を震わせ襟元を掻き合わせた。
すらりと立つ細身の全身に鋼の強さを滲ませた、未だ少年の面影を残した年若い軍師。強く蒼い双眸で夜明けの空を見上げると、きつく目を閉じた。
「…だから、俺は」
握り締めた拳が震える。
のみならず、零れ落ちた声色の端も僅かにヴィブラトーンを思わせる響きを朝の澄んだ空気に流れ落ち、きっ、と見開いた瞳に宿るものを認識させる。
怒り、とも苛立ち、とも取れるその全身の様相全てで表現しつつ、青年は振り絞るように、我慢していた言葉を人気のない周囲へと叫んだ。
「だから俺は女じゃねえっつってんだろーっ!!!」
はあはあはあ。
肩で息をするほど呼吸を荒げ、喉が嗄れるほどの勢いで叫ぶ内容ではない気はするが、本人は至って真剣そのものだ。
工藤新一、職業・王国主席軍師。
敵味方に称される二つ名は数知れず。しかし最も有名なものは二つ。
一つは、『緋色の賢者』
そしてもう一つが…『真紅の戦乙女』。
ただ、新一にとって不幸な事は…最近、二つ目の名前を呼ばれる事の方が増えた、という事実だった。
なるべく冷静を装って出てきた天幕の入り口近くに倒れ伏しているのは、新一が蹴り倒してきた今回の絶叫の原因。
本人は悪気は全くないのだが、基本的に人の逆鱗を全く学習しない、困った王国師団長をなるべく見ないようにしながら、大きく溜息を落とした。
経験上、アレが復活するまでさほど時間はあるまい。
それまでに一切の証拠を隠滅すべく、未だ上下する肩を宥めて荒い所作で天幕へと足を向けたのだった。
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2005.07.01.
H O M E *