3.触れ合えない距離の
「あ」
「え」
情けない声を出して、思わず二人は出会い頭に固まった。
目の前には、細部は異なるもののまるで鏡を前にしたかのようにそっくりなもう一人。それが誰か、は互いに認識してはいるが、それをここで言ってしまって良いものかどうかの判断が付かずに情けない声を出して固まる以外の選択が咄嗟に出来なかった。
今日は休日。珍しく探偵が警察に呼ばれる事件もなく、怪盗が出没する宝石展もない休日だった。それぞれがそれぞれの幼馴染の少女に手を引かれ、やってきたのは話題の映画。
探偵である少年の手にはコーヒーとウーロン茶の紙カップ、怪盗である少年の手にはキャラメル味のポップコーンとコーラのカップ。どちらもどうしてこういうところの食品類はアメリカンサイズなんだ、食うのはどうせ日本人だろうという一般的ツッコミを無視した相変わらずのビッグサイズである。ちなみにこの問題に関しては双方共に優秀な脳を駆使しても未だ答えは出ていない。頭の無駄遣いだとは自覚していても脳内の事ゆえに誰も突っ込んではくれないのだが。
「ええ、と…」
「…あ」
最初に我に返ったのは、怪盗キッドこと黒羽快斗の方だった。困惑したような声音に、固まったままだった探偵である工藤新一もまたはっとしたように相手を見つめなおす。
似ている。あんまりにも似すぎて気持ち悪いほど似ている。確かに造作の細部だとか髪型だとか目の色だとか、細かいところは違っているが双子だと言えば10人中10人が確信する相似っぷりだ。
ここまで似ていたのか…と二人とも明るいところでまじまじと見た己のそっくりさんに微妙な気分になりながら、この後どういう反応を返したものかと再び口ごもった。
「快斗、何やってんの?」
「新一…そんなところで立ち止まってどうしたの?」
天の助けか意地悪か。
それぞれの背後から聞こえたそれぞれの幼馴染の声に思わず振り返って、ようやく二人ともこの状況を思い出す。
そうだ、映画を観に来ていたんだ。
「あ…じゃ、じゃあ」
「お、おう」
そそくさと、すれ違うようにしてそれぞれの幼馴染の傍らへと戻ってゆく。ほんの少し感じた寂しさとちくりとした胸の痛みは双方共にあるものだったが、自分のそれを自覚はしても相手のそれを知る由もなく。
怪盗の恒常的な痛みは更にそれを強め、
探偵の消えない幻聴はその数を増やす。
互いが互いの幼馴染に笑って見せながら、どうしようもなく焦がれた相手に何も出来なかった自分に自己嫌悪する。
偶然とはいえ折角、会ったのに。会えたのに。
探偵はウーロン茶を、怪盗はコーラを幼馴染の少女に手渡した事で空いた片手をじっと見つめる。
塞がっていた手。今は空いたそれ。
触れる事さえできなかった現実。冷たい飲み物に冷えた手に、相手の体温を思って自然鼓動を早めた。
そんな彼らの行動に不思議そうに首を傾げる幼馴染たちをそれぞれ必死で誤魔化しながらチケットの席へと身体を沈める。
映画は面白い…はずだったが、気分は上の空でそれどころでなく。
先ほどの邂逅が、二人それぞれに企んでいた『素の自分で知り合いになってあわよくばその後…大作戦』の格好の機会だった事に気づいて轟沈したのは、揃って家に帰り着いた後だった。
つづく。
2004.12.10.
H O M E *