見知らぬ貴方へ
言葉すらいらない、
視線さえ合わない、
擦れ違うこともない、
まったく見知らぬ貴方に問うのは。
「…生きてるか?」
探偵は見上げる。
欠片のような細い月の、それでも銀色に世界を弾くその光の中で蒼の双眸をしかと見開いて、見上げる。
この手もこの背中もこの想いさえも、ひょっとしたら虚偽に過ぎなくても、でも。
「…ねえ、生きてる?」
怪盗は囁く。
眩しく辺りを照らす真夏の陽光の只中で、水面に乱反射するそれに目を細めながらしなやかな指先を繰りて零れるような声で、囁く。
似合いもしないのに、と嗤ったのは、どちらか?
「…とりあえず、俺は生きてる」
「私は…まだ、死に損ねてますよ」
ちっぽけな僕から見知らぬ貴方へ。
何一つ約束出来ない不甲斐ない自分たちはせめても、生きている事だけが免罪符になり得るように思えて。
何も知らない貴方へと、勝手な問いかけを繰り返す。
「…なあ、」
「…ねえ、」
互いに互いへと問いかける声の交差する瞬間。
それはきっと、解き放たれるのを待つ言葉。
2005.03.15.
H O M E *