あまい、あまい。
指先に掬い取る白いふわふわした、少し冷たいそれに至福の微笑を浮かべて黒羽快斗は満足そうにその指を口の中に運ぶ。
ふわり。口の中で淡く溶けて消えるやわらかな甘み。
舌の上に僅かに残る優しいミルクの味とバニラエッセンスの香りに更に相好を崩して、目の前の完璧な出来栄えの自信作たちをくるりと眺めた。
焼き色も美しい紅玉のパイ。
旬のベリーを惜しげもなく使ったタルト。
ミントの葉で彩を添えたレアチーズケーキ。
ココアパウダーを散らしたカスタードシューとミルクシュー。
ふるると揺れる香ばしい香りのコーヒーゼリー。
紅茶の匂いを引き立たせる、生クリームを添えたシフォンケーキ。
大皿に盛られた多種多様なクッキー。
バターがふんだんに使われたマドレーヌ。
どれもこれもが快斗の自信作であり、彼の大好物でもある。うきうきと白い粉が僅かに付着したエプロンを外して洗濯機に放り込むと、ぱさりと傍らに容易してあったテーブルクロスを広げる。
あまい、あまい香り。
外は快晴、風も穏やか。暑くも寒くもないこんな日は、絶好のお茶会日和。
魔術師の器用な手は、彼の愛する壊れ物のようなお菓子たちを手際よくバスケットや箱へと詰め込んでゆく。
最後にクッキーをざらりと円筒形の箱に詰めて、ピンク色のリボンを結んで出来上がり。
しゅんしゅんと湯気を上げるケトルを手にとって、用意していたティーポットに注ぎいれる。途端に零れる紅茶の良い匂いに、くすくすと零れる笑みはきっと。
「…何やってんだよ、快斗」
「あ、新一」
庭を望むテラスにギンガムチェックのテーブルクロスを引いて、用意された椅子は三脚。
探偵と怪盗と科学者の、奇妙奇天烈なお茶会はもう何回目になるだろうか?あまり甘いものや紅茶が得意でない探偵用に美味しいコーヒーもきちんと用意して、準備は万端。
「それ、持っていってくれる?俺はお茶の用意してから行くからさ〜」
それ、と言外にキッチンテーブルの上のバスケットを示されて、新一は思わず顔を歪める。あまい、あまい匂いのする、見かけより中身が詰まったバスケットは…それはそれは重くて気を使うシロモノで。
「…ああ」
けれどもこくりと頷くのは、多分大切なものを預けられている自分を知るからだ。
壊れやすくて、重くて、大切なのは快斗自身を示しているかのようで、少し、嬉しい。
魔術師の器用な手で形作られた作品たちを手に、探偵はキッチンを後にする。その緊張した背中が愛おしいと、怪盗は気付かれないようにくすりと笑った。
あまい、あまいお菓子たち。
けれど本当に甘いのは、多分。
2005.04.14.
H O M E *