26.夜行性


 俺は白鳩を飼っている。
 …対外的には飼っているとしか言いようがないが、実際は単なるペット、というわけでもないのだが。
 何せ、餌は要らない。現実的な世話も必要ない。むしろ世話になっているのはこの場合俺の方だ。
 この白鳩はたいそう利口で、しかも鳥の癖に夜行性だ。むしろ夜の方が嬉々としている風に見えるのは絶対に元の飼い主の所為だ。同様に夜行性の猫だの鼠だのを従えているのを見た時には流石に我が目を疑った。
 というか普通、鼠はともかく猫は鳩にとって捕食者ではないのか。それともこんな非常識な飼い主から引き取った白鳩に常識を期待する方がどうかしているのか。
 白鳩の名前は、カーレルヘイト・デュマ。
 鳩にしては長い名前だが、本来飼い主が付けていた名前は実はもっと短くて簡潔なものだった。それを俺が姓名学的に相応しい、由緒ある名前に変更しただけで。
 恐らくは呼びやすい、その名前を俺が変えたのにだって訳はちゃんとある。
 この白鳩の本来の飼い主は糸の付いていない凧のように気侭で後先考えない奴でそのくせ強運なものだから性質が悪くて、適当に名前を付けたは良いもののその本当の由来を知る事無く俺はこの白鳩を引き取り、飼うことになったからだ。
 だから少し対外的に呼ぶには憚られる『KID(子供)』から推察できる最も賢そうで強そうで響きの良い名前を俺がつけてやる事にした。
 いい名前だろ?
 しかし鳩、というのはどうなのだろうと時折胡乱な目で見てしまう事は大目に見て欲しい。コイツの本来の飼い主は、やむにやまれぬ事情によって多数の鳩を飼ってはいたが、コイツの存在がそんな理由ではない事は俺が一番良く知っているからだ。
 大体、鳩なんてタマか、アイツが。
 くるる、と可愛げのある鳴き方をしてもコレは使い魔だ。
 そして、本来の意味の『使い魔』ですらないものだ。でなければこの俺がわざわざただの白鳩なぞ飼うものか。
 俺は知っている。
 月夜の晩に現れる、白い正装の幻影こそがこの白鳩の本来の姿なのだと。同様に、アイツにくれてやった黒猫もまた、月のない夜には青い目の子供になっているのかも知れないが。アイツは俺より器用だったから、ひょっとしたらずっと猫なのかも知れない。これはもう、知りようがない。
 月の綺麗な晩に会える、白い幻影。ひらりと風に舞うマントの端を、掴むような真似はしたくないし今まではしなかったけれど。
 今のアイツに生き写しなのだろう白鳩のもうひとつの姿に、いつか涙を流す時も来るのかも知れないと、俺は思う。
 アイツにくれてやった黒猫のように、アイツがくれて寄越した白鳩があって。

 それでも俺は時々、寂しさに胸を掴み続ける。




2004.12.25.

H O M E *