06.黒猫
俺は黒猫を飼っている。
…まあ、飼っているといっても単なるペットというわけでもないが。
何せ、餌は要らない。現実的な世話も必要ない。むしろ世話になっているのはこの場合俺の方だろう。
この黒猫はたいそう利口で、俺が個人的に本来の意味で飼っている鳩たちにも手を出さない。というより、気付けば利口な黒猫は俺が所有する数十羽の鳩たちのボスになっていた。ほんの少しだけ理解できる鳩語…鳩語?で様付けで呼ばれているところに遭遇したのも記憶に新しい。
黒猫の名前は、コーヴィ・ナフィカハーンズ。
随分と猫にしては長い名前だが、これも俺が適当に縮めた名前で本来はもっと長ったらしい名前が付いている。らしい。
らしいというのは俺が付けた名前ではないからだ。
この黒猫の本来の飼い主は酷く凝り性で気侭で強情で、意地になって名前を付けたは良いもののその正確な発音をついぞ俺の耳が聞き取る事がないままに俺はこの黒猫を引き取り、飼うことになったからだ。
だからどうにか判別できた長い名前の一部であるコーヴィ・ナフィカハーンズを本名という事にして、俺は単純に『コナン』と呼ぶ事にしている。
いい名前だろ?
さて、世話になっている、という意味はといえば、コイツはただの猫ではない。
そりゃそうだ。鳩を捕食するならともかく鳩に様付けで呼ばれるようなただの猫がいたら俺もお目にかかりたい。閑話休題。
ともかく、この猫は名付け親から俺が譲り受けたれっきとした『使い魔』の類なのだ。
使い魔というのはご存知かも知れないが詳しく説明すると、主人と魔法的に繋がって魔力を分け与える事で契約を結び主人に仕える…まあ、召使の魔法版といったところか。ともかくコナンは俺の使い魔なわけだ。
それは、首に巻かれた首輪代わりの呪符紐とちりちりと鳴る銀の鈴が示している。呪符紐はコナンの真実の名を絡めて俺との契約を補助するもの、銀の鈴は他方面からの魔力の波動をシャットアウトするための術具の類。どちらも、黒猫の名付け親自ら巻いてくれたもので彼のお気に入りだ。おっと、言うのを忘れていたがコナンは雄だ。綺麗な毛並みをしていて、雌猫と間違えた近所のノラが煩く鳴いていた事もあったけどな。
ともかく、そんなわけでこの使い魔を飼い始めてずいぶん経つが、どうやらこの黒猫はとても優秀な類らしい。名付け親と飼い主に似たんだな。
朝はてし、と頭を叩いて起こしてくれる。
俺の代わりに早朝の鳩小屋の戸を開けてくれるのは、朝が忙しい俺にはとても有難い。(だから鳩に様付けで呼ばれてるんだな、多分)
ひょいと抱えて行く学校でも、大人しく俺の傍らに控えて動かない。
言語も相当理解しているようで、俺の言葉に反応しない時は拗ねている時ぐらいのものだ。
他にもいろいろあるが、少し書ききれそうにないので割愛しておこう。
コナンと過ごす生活は穏やかで、ほんの少し刺激的で、優しい。
ただ、ほんの少しだけ。
コナンのちりちりという鈴の音に、かつて手放した『俺』の事を思い出す。
それだけが、ほんの少しだけ…寂しいのだけれど。
2004.12.25.
H O M E *