何も無い僕から


 この手に在るのは絶望?それとも希望?
 一切の未来を踏みしめて、それでも尚足掻くのは誰の為?

「…愛してますよ、名探偵」

 ふうわりと笑った唇の赤は、きっと夜の闇の中にも鮮やか。
 触れた体温の確かさは、いずれ消えうせるとしても現実。
 右手だけを絡めて、体温と皮膚の感触だけを交合する逢瀬は、酷く些細で泣きたくなるほどなのに。

「…愛してるぜ、怪盗KID?」

 君の問いも答えも、確かに此処に在るのに。
 返せない想いは僕の我が儘。
 ただひとつ触れ合った右手の温もりを確かめるように力を強めれば、同意するようにこちらも強くなる相手の手。

 たった一つ、なんかじゃない。
 たくさんたくさんある中での一つでいい。
 例えば綺麗なものを見たとき、
 美味しいものを食べたとき、
 感動する話を聞いたとき、

 僕の事をほんの少しでも思い返してくれたらいい。

「愛してますよ?」
「愛してるぜ?」

 何もない僕から大切な君に渡せるものは今はこんな言葉ひとつしかないけれど。
 いつか、きっといつか。

 太陽の下で君と、微笑う未来を。



2005.03.15.

H O M E *