眠れぬ夜には


 彼との邂逅はいつでも夜。

 それも決まって、月の綺麗な夜。
 なぜならそのイキモノは『月夜』の下でしか生きられない。そういう風に定義づけられた存在だったから、不承不承に俺はそれを受け入れている。
 時を刻む塔から始まった一連の関係性は、薄いように見えてしっかりと俺と彼を結びつけた。所々に見え隠れする綻びでさえ、俺たちを煽る要因でしかなかったのだから、やはりコレは運命の悪戯では済まされない必然があったのだろうと思う。
 夜に映える白を纏って、月の下に佇む彼は、綺麗。
 どきどきわくわくしながらそれを追いかける時、何より満たされる自分を自覚した時、それは唐突に訪れた。
 否、ひたひたと足元に忍び寄っていた甘い毒のような恋情は、確かに育まれていたのかも知れない。
 だからこそ、俺は月夜の下での逢瀬如きで満足する気はさらさらなかった。
 オール・オア・ナッシング。どちらか一方に決めてしまいたいのは単なる我が儘。けれど。
 湿り気を帯び始めた初夏の夜の空気を深く吸い込み、俺はたったひとつの切り札を携えてそこに立つ。
 これを告げたら、オマエはどうするんだろう。
 泣くか?笑うか?…軽蔑するか?
 何だっていい。二度とこの月夜の下で眠れぬ夜を思わなくても済むのなら、なんだって。

 寝不足気味の頭を軽く振って、俺は空を仰ぐ。
 夜の、湿気に少しぼやけた満月はまるでアイツと俺そのものだ。曖昧ならば曖昧なままにしておけばいいのに、それが出来ない俺が許せないなら、さっさと切って捨ててしまえ。
 恐らくは怪盗には朗報となる情報と、それをゴミ箱に叩き込む対のそれとを手にしたまま、探偵は赤い唇に薄い笑みを浮かべて小さく今は呼ぶことが許されない名前を囁いた。

 さあ、オマエは俺を許すか?それとも?
 今夜を終わりにするも始まりにするも、全てオマエの胸先三寸。



2005.06.10.

H O M E *