いろの名前
あお、と称される色。
彼と己の瞳に向けられるのは、そういった名称の色。
事件を追いかけている時、新しい奇術を成功させた時、きらきらと輝くその色が好きだと互いが互いを褒め合って、くすぐったく笑うこともしばしば。
何気ない一言に途方もなく傷ついた時、光しか知らぬ誰かの言の葉に傷つけられた時、伏せられるその色を痛ましく思う事すら一緒。
あお。
「でも、新一の瞳の色は俺より明るいよね…空のいろ」
夏の日の晴れた空の色だと、くすくすと笑う快斗の言葉に、頬に添えられた指先を名残惜しげに払い落としながら新一もまた彼の瞳を覗き込む。
「おまえは…朝と夜の切り替わる境界線の色だな。深くて、むしろ海のいろ」
指先をくすぐる癖のある髪の感触に薄く笑いながら、触れた先の体温の確かさに探偵は安堵する。怪盗は歓喜する。二人一緒のようで少しづつずれた、許容範囲の差異はきっと必要事項。
まるでひとそろえのようによく似た二人の差異は僅かでけれど確実で、故にこの恋情が許可されているように吐息を漏らす。恋心のうらはら。
「空と」
「海だ」
交わらない、けれど常に接触するふたつの色を抱えたまま、互いにその色を綺麗だと思う。伏せられ涙が零れ落ちる事があっても、その色の確かさまでは消えない。
「『あお』いのは、一緒なのにね」
髪を掻きあげる快斗のしなやかな指先の感触に、うっとりと眼を細めて新一はされるがままに任せている。こめかみを辿り耳をなぞり、再び髪の毛を梳く指は細くて綺麗な芸術品。その器用な手が、新一は事のほかお気に入りだから。
「青、蒼、藍、浅葱、縹、露草、群青、新橋…ひとくちに『あお』と言っても千差万別だからな」
「珍しい名前まで知ってるねえ、新一」
流石に探偵などしている雑学の山ほど入った頭だけあって、普通なら出てこないような色の名前もすらすらと出てくる。そしてそれを理解する奇術師の出来の良すぎる頭も正直どうかと思うが、話が通じるのは面倒な説明が省けて良い事なのでさらりと流して心地よい指の感触を堪能する事に新一は決めた。
「俺たちそのものだろ」
似すぎるほど良く似た他人。まるで重ねたように同一の思考経路と行動論理。それでもまったくの同一ではないから、そこに感じる齟齬のように『あお』であるけれども違ういろ。
「だから、いいんだよ」
俺もオマエも『あお』でいいんだと、懐くように気に入りの指先の感触に額を擦り付けて新一は猫のように喉を鳴らす。
昼下がりのソファの上で、それでも窓硝子越しの空はやっぱり『あお』かったけれど。
2004.11.27.
H O M E *