intermission


 現実世界を生きるヒトと、電脳世界の擬似生命を隔てるものは、何か?
 その問いに、大抵の人間は『生命』の存在を挙げて差異を主張する。けれども、それは現実世界…リアルスペースに在る存在の傲慢なまでの偏った意見に過ぎない。
 少なくとも、ある程度電脳領域に詳しい専門家ならばもはや当たり前のように認めている事実だ。
 リアルスペースでは明確な実体がないという理由でそれら擬似生命…自律思考AIやパーソナル・ロボットたちは生命とは言えない。それは確かに真実だ。
 ならば、ヒトが生み出したもう一つの現実。仮想現実たるサイバースペースでは?
 そこでヒトとヒトでないものの境界線は何処にある?
「…そう、どこにもない。ヒトが主張する万物の霊長たるその頭脳でさえ、或いは彼らは上回ることだってある」
 まるで廃墟のようなグラフィカル・イメージの只中で、壊れたデータが積み重なったその上に腰を下ろし、白一色に染め上げたような模擬体は呟いた。
 誰に聞かせるでもない言葉。
 強いて言うのなら、己に言い聞かせるそれに近いか。
 ぱらぱらと手の中で幾つかのデータファイルを遊ばせながら、その深い藍の瞳で虚空を眺める。
 『怪盗KID』の名は己を示すものだが、果たしてこの姿の何処までがオリジナルかと言われれば答えに窮する。それは『黒羽快斗』でさえ同じ事で、まるで共有ファイルの如き存在が現実にもあるのではないかと邪推するほど世界は狭い。
 それは、かの『最深の蒼』たる『名探偵』しかり。
 そして、かつて己と同じく白を纏ってサイバースペースを渡った存在しかり。
 そこにリアルとそうでない事の意味を問うても、返る答えはいつだってたったひとつ。
「俺は…俺だよな」
 言い聞かせるような言葉はとてもか細くて。力なくて。

 此処に在るのは、『KID』か『快斗』か、それとも?

「…真相は、今以て闇の中」
 まるで記号化された情報を複製するように、人間もその人格と記憶を保存できるとしたら?
 そこにある膨大な情報を余す事無く欠ける事無くすべて写し取ったなら、そこに出来上がるのは、何?
 その答えを知る存在があるのなら、きっと神様といういけすかない名前をしているんだろう。
 忌々しさと、存在の苦痛と、ほんの少しの希望を抱いて。
 口ずさむ名前は、今はもうたったひとつ。

「-------…」

 ちりちりと脳裏に浮かぶ警告は正しい。
 きっと『KID』も『名探偵』も、いずれ食い合うように共倒れになる。
 それでも、だからこそ望む言葉はたったひとつ。
 それを言葉に出来るなら、何一つ迷う事も惑う事もないのかも知れない。
 唇を湿らすように、音にせずその『一言』を吐息に乗せて零し、怪盗KIDは膝を抱えた。

 この永遠の孤独は、きっと痛みに似ている。



2005.05.17.

H O M E *