
Q.俺は一体どーなってるんでしょーか?
A.膝枕をされています。
『…有り得ねえ…』
正直混乱した状態のまま自問自答したものの、見たままの答えしか返ってこなかった黒羽快斗は、内心がっくりと肩を落とした。
現状確認。黒羽快斗・十八歳になりたてぴちぴち男子高校生は、現在公園にてぼんやりしておりました。
その理由は、放課後に『快斗君誕生日おめでとう会』なるシロモノを企画したノリのいいクラスメイトに無理矢理祝われ、嬉しいながらもちょっぴり疲労困憊していた所為です。
もうすぐ日も沈む人気の無い公園は静かで、段々と長くなり消えてゆく影を眺めていた。嬉しいはずの何処かで感じていた『寂しい』という気持ちを、無理矢理誤魔化すみたいに。
そこまではいい。問題は。
「…よう」
唐突にかけられた声に顔を上げれば、そこに居たのは紛れも無く東都が誇る名探偵。自分が好敵手と認める唯一の存在。
驚きの余りに声を失っていると、何処か固い表情の彼は硬質な声で「そこ、いいか」と問うた。
そこ、というのは自分の隣という事だろうか、とぼんやりした思考で判断した快斗はうろたえながらも肯定の返事をする。
すると、何故かふい、と視線を逸らし、小さな声で「そうか」と名探偵が呟いて。
ぽふ、と快斗の膝に頭を載せて寝転がった。
混乱した。そりゃあもう思いっきりした。というか現在もまだ進行中で混乱している。
一体何が、どうして、とぐるぐると回る快斗を他所に、名探偵はどこまでも上機嫌に膝に納まっていた。
ほっぺた擦り付けたり太腿ぺちぺち叩いたり(別に痛くはないけれど)子供っぽい仕草に途方に暮れる。
だがしかし、最初は上機嫌だったはずの名探偵は、時間を過ぎる毎にどこか不機嫌になってゆく。全く状況が掴めない快斗は、最初から硬直して動けないままで。
「…あの、めーたんてー?」
「何?」
問い掛ける声に困惑が滲んでいる事も、情けないながらも止められない。不機嫌そうな名探偵の返事すら、出来が良いはずの頭をすり抜けて何処かへ行ってしまいそうな気分。
ああそうか、人間本当に驚いた時には思考って停止するもんなんだなー…などと現実逃避じみたことが脳裏を過ぎる。
「なんで、俺の膝枕?」
「今日はオメーの誕生日だから」
誕生日。そうだ今日は俺の誕生日だ。さっきまでだっていろんなヤツに祝って貰っていた。
しかしそれが現在の状況とどう整合するのかがとんと分からず、やっぱり途方に暮れる俺の目の前に名探偵はポケットから取り出した白い封筒を押し付けた。
「何、コレ?」
「渡せって」
誰が、どうして、という部分を見事に省いた名探偵の言葉に、これ以上追求しても仕方ないと快斗は大人しくそれを受け取った。白い、簡素なそれは唯一可愛らしくハート型のシールで封がされていたが、裏に書かれた差出人の名前に思わずぴしりと思考を凍らせた。
『なななな、なんで彼女の名前!?』
この名探偵の共犯者にして理解者、恐らくは今現在彼に一番近しいと思われる外見小学二年生、中身は同年代の天才薬学者の彼女、灰原哀の署名が綺麗な字で記されている。
まるで処刑場に引き立てられるみたいに嫌な感じでドキドキする心臓を宥めながら、開けた中身の内容に快斗は正直心臓が止まるかと思った。
曰く。
『誕生日おめでとう怪盗さん、コレは私からのプレゼントだから好きにして頂戴。
PS・まさか受け取れないなんて言わないわよね?』
『何で俺のコトこんなにバレてんだよーっ!?』
それは正体だけに留まらず、この快斗の膝で膝枕をしている名探偵への想いも含むのだろう言葉は意味深で、快斗は思わず天を仰ぐ。
よく見たら、なんか名探偵のTシャツが…滅多に見ないような可愛らしい色合いで、オマケに「ぷれぜんとふぉーゆー」とか書いてあるよーな…あ、なんか眩暈が。
「コラ怪盗」
「…なんでしょめーたんてー」
ぎゅむ、と膝…というか太腿掴むのをやめてください。まあ、言ったところで「いやだ」と言われるのが関の山だろうが。
「嬉しくないのか」
「…いやもー嬉しいとか嬉しくないとかでなくてね」
なんか、そんな微細なことを感じられる感情が吹っ飛んだまま戻って来ないんだよね。多分嬉しいとは思うんだけどさ。
おかしいな、膝枕は嬉しいんじゃないのか、と一人ぶつぶつ言っている名探偵。俺は未だに現実逃避中。
どんどん日が傾く公園で、途方に暮れたまま「…膝枕で嬉しいのは、どっちかっていうとしてもらう方じゃねーのかな…」などと考えている間にも膝に感じる温もりに、さっきまでの『寂しい』感情が溶けていくのにも戸惑いながら。
さて、この場合の『プレゼント』とは、どこまで貰っても良いものなのだろうかと、快斗は真剣に悩み始めたのだった。
おわり。
6月の快斗オンリーにちょびっとだけ作って配った限定冊子の表紙絵と中身です
無駄に光沢紙とか使って頑張ってみましたヨv
H O M E *