感触
触れる指先。
どうしようもない熱と、感情の行き先がなくて渦巻いている。
触れられた先から相手に伝わることも伝わらないことも望んでいて、その二律相反に俺はうっすらと自嘲する。
預けた背中はアイツの方が少しだけ広くて。
見上げた空の色は、おっそろしいほどの青。
ちらりと盗み見た斜め後方からのアイツの顔はやっぱり整っていたし、陽光に透けた銀髪も相変わらず綺麗だ。女の子がキャーキャー言うのも仕方ないのかも知れない。
けれど、そこまで考えたところで少しちくりと痛んだ胸は、知らないふり。
食い散らかした昼食の入っていたコンビニのビニール袋が、かさかさと音を立てて風に吹かれていった。
「…なあ」
絡めたままの左手と、預けたままの背中が熱い。まるでアイツと接触した部分だけが生きてるみたいに、そこだけに神経が集中してる。
苦し紛れにかけた声にも、返るのは言葉じゃなく強く握られた左手で。
俺はほんの少し息を詰めて、その指先にされるがまま成り行きを見守る。
けれど、ほんの少し強く握っただけでそれ以上の進展を見せなかった行為に、やっぱりほんの少しの不満と安堵。
絶対、オカシイ。
こんなじゃなかった。こんなはずじゃなかった。
惚れてるのは俺。でも惚れられてるのも俺のはずなんだ。
なのに、まるで片思いみたいにハラハラして。
触れてる指先も背中もまるごと心臓になったみたいで。
…ムカツク。
「なあ、犬飼!」
「…なんだ」
ややきつめに問うた声に返る返答は、ぶっきらぼうに平坦なもの。けれどそれが、特に意識しない彼の地だと知っているから、いちいちそんなことは気にしないけれど。
確かめて、みたい。試してみたくなる。だから。
ぱっと、絡めた指先を引き剥がす。
ついでに預けた背中も。
そうして離れる一瞬、ホントに一瞬だけど残念そうな、惜しむような犬飼の顔を垣間見る。
そして、そんだけで俺は満足するんだ。
「…俺、オマエのこと大好きなんだけど」
離した指先は犬飼の首筋に絡めて、自分自身は彼の膝の中。
丁度向かい合って顔を突きつけるような状態に、面食らったように犬飼は言葉を失う。
未だコンクリートの床に置いたままの左手を無理矢理に自分の背中に回して、額をつっくけあうくらい近くで俺は笑う。
「聞いてる?」
ぽすん、と頭を胸に預けて。
悔しいけれど自分より一回り大きい男の腕の中はとても心地が良い。
うっすらと刷いた笑みが、どれだけ幸せそうなものなのか知る者はいないだろうけれど。
「…冥?」
「聞いてる…とりあえず」
ぶっきらぼうな返答。
でもその顔が真っ赤に染まってることだって、俺は知ってるんだ。
毎日毎日飽きもせず試して確かめて安堵して、そうして笑ってみせるんだ。
その笑顔に、コイツが弱いことなんて百も承知で。
そうやって毎日、こうしてたら。
きっと永遠なんてすぐそこにあるんだ。
この、指先に伝わる早い鼓動と熱い体温のように、揺るがない確かなものとして。
犬猿祭に投稿したお話その2。目指したところは可愛い猿(爆笑)
可愛い!?可愛いこの猿!?小悪魔の間違いじゃないの玖珂さん!
確信犯だろ間違いなく!膝に座るのもでこくっつけるのもさ…
やっぱり犬飼さんヘタレ。たまにはカッコ良くなりなさい犬飼さん。
Erika Kuga